ジェイフィールの自由研究

和田 誠司 連載コラム「渋沢栄一から学べること」6

和田 誠司2021.11.09

前回は渋沢栄一が、コネクティングリーダー、つなぐリーダーシップを発揮して社会の発展に貢献し続けていたと紹介した。栄一はコネクティングリーダーとして、社会公共事業の発展にも大きく貢献した。今、達成に向け世界中が動いているSDG'S。彼はそんな言葉もない時代から、もっと言うと社会公共事業という言葉がない中で、創り、貢献し続けてきた。つまり、SDG'Sのパイオニアと言っても過言ではない。

まず、功績を簡単にご紹介すると、驚くべきはその数と種類の多さである。栄一が携わった社会公共事業は全部で約700もあると言われている。民間企業に携わった数が500なので、社会公共事業の方が携わった数としては多い。渋沢栄一財団のHPを見ると、全36のカテゴリーがあり、社会福祉施設、女子教育、労使協調、国際記念事業など実業界と同様で、実に多岐にわたるジャンルで貢献していることが分かる。彼は引退後も社会公共事業を続け、時間と私財を使い、社会課題の解決に生涯取り組んだ。

次に驚嘆するのは、栄一が社会公共事業に携わった時期の早さである。多くの資産家が実業界で大成功を収め、資本ができてから社会公共事業に参画することはよくある話だ。ただ、栄一の場合はそれらと異なり、大資産家となる前の30代前半からこの事業に参画している。この時期の栄一といえば、大蔵省を下野し、第一銀行の創設に奔走していた時期である。ではどうして彼が他の資産家と異なり、若い時から社会公共事業に参画をすることになったのか、最初に関与した社会公共事業である、東京市養育院(現:東京都健康長寿医療センター)の事例を基に、探求していきたい。

東京市養育院とは、大久保一翁が中心となり、明治5年に東京府の幼児~年配者と幅広い生活困窮者を収容することを目的として建てられた。もう少し詳しく説明すると、諸外国のお偉方々が来日するにあたり、浮浪者が道にいては具合が悪いので、一箇所に集めて、府の体裁を整えるために作られたのだ。
彼がそんな東京市養育院に関与したきっかけは、東京府知事から七分金の取締方(金庫番)を任じられたからであって、浮浪者たちを救うなど高い志を持っていたわけではなく、まったくの偶然であった。
そのことを栄一自身も「私が社会事業に入ったのは偶然の事からでありまして、決して高い理想や考えをもって始めたわけではないので、真に恥ずかしいことでございます」※1と述べている。
関与したきっかけは、どうあれ彼は養育院への関わりを強めていく。
「ともかくもっと広げ寛げせたいと思って、(院長に)相談しました。やりだすと色々のものがあるのであれもやりたいと思い出しまして、(中略)役員にも選任し(てもらい)、引き続いてやることに決めました」※1と彼は述べている通り、理事となり最終的には院長を約50年近く務めることとなる。きっかけは、偶然としても乗りかかった船を決して降りず、その人達のために活動するあたりが、彼らしい。


このような経緯で生まれた養育院では、経済的な弱者を収容し、食事を提供していた。しかし、経済的な弱者の救済に対して、世間からは批判の声が上がった。
いわく、「働きもしない者をなぜ助けるのか」。「そのように甘えさせるから、いつまでも自立しないのだ」。「税金の無駄遣い」などである。現代の日本でも、生活保護受給者に対して、厳しい目を向けられがちであるが、明治の日本も同じような批判の声があったわけだ。
最終的には、田口卯吉が「税金を使って、貧乏働けない者を養育することは、怠け者を作ることになり、税金で養うべきではない」と市会で演説した。これに、栄一は「政治は論語でいう仁に基づいて行うのが当然」※2と反論するが、この田口の演説をきっかけに、給付金不要論が支持を集め、議決され、給付金がストップしてしまう。給付金がなくなれば、廃院となってしまうことは明らかであった。
補足として、鉄道ファンであればご存知の方も多いだろうが、田口卯吉は日本の文学や鉄道の発展に多大なる貢献をしている。ただ残念ながら、彼が描いた日本発展のビジョンに、弱者救済という考えはなかったのだ。
栄一がすごいのはここからである。委任経営となり、東京市の支援がなくなったわけだが、「当時は未だ社会事業の名はなかったが、貧民救助の方法はどこの国にもあったと聞いておりましたし、慈悲の心が国民全体に必要であって仁義忠孝を最も大切であると思っておりましたので、これを努めようと思いこの点で多少の理想をもっていたわけですが肝心の金が無い。市税などをあてにしていては駄目なので、有力な人達から金をもらって歩きました」※1とあるように、市税に頼ることなく運営をするため、寄付を募り、自身も200円(現在の400万円相当)の献金をして、養育院を存続させるために奔走する。栄一は養育院が乗った軌道に乗った後も関わり続け、月に1度は訪問していた。その後、養育院は栄一の死後も継続して、現在は東京都健康長寿医療センターへ変貌を遂げ、医療機関として存続している。

栄一の活動は次第に共感を呼び、社会事業に投資する仲間が集ってきた。その一人してに服部金太郎がいる。
栄一が人相占いで、107まで生きると結果がでた。その結果をニコニコと服部に伝えると
「えっ? そりゃ大変だ(中略)これからどれだけ寄付金の御用があるか分からない。(中略)もっと稼いでこなきゃ......」※3それを聞いた人は、一同に笑いあったそうだ。
また、家族会議で寄付金の話をするときは、
「また私の道楽を許していただきたい」※3と切り出していたそうだ。
栄一にとって社会公共事業は、生きるための楽しみであり、社会への恩返しだったのだろう。だから、生涯続けていたのだと思う。

彼が社会公共事業に参画するきっかけを主に振り返った。そのきっかけは、大久保一翁の司令であり、偶然であった。もし、当事者となったとき、中には面倒事を押しつけられたと捉える人もいることだろう。しかし、栄一はこの機会を見事に活かし、日本で社会公共事業を創り、発展させるまでにいたった。
そして、最後のときまで貫いた。それは、栄一が92歳のときである。日本全国に寒さと飢えに苦しみ窮民が20万に人いた。政府は救護法を制定するも、なかなか実施はされなかった。そんなのとき、栄一を頼る人が現れ、「政府に働きかけて欲しい」という願いを伝えた。すると「私はこの歳になるまで、及ばずながら社会事業に尽くしてきたつもりです。(中略)それが私に与えられた義務だと信じます」と政府に救護法の実施を早めるよう働きかけたのだ。※3 

今回のエピソードを振り返り、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した「プランド・ハップンスタンスセオリー(計画的偶発性理論)」を思い出した。
プランド・ハップンスタンスセオリーとは、クランボルツ教授が、成功したビジネスパーソンを調査し、「キャリアの8割が予期しない出来事や偶然の出会いによって決定される」と発見された理論だ。そして、良いキャリアを歩むためには、以下の5つが重要であると言われている。
<計画的偶発性を起こす5つの行動特性> 
1 好奇心(Curiosity):新しいことに興味を持ち続ける 
2 持続性(Persistence):失敗してもあきらめずに努力する 
3 楽観性(Optimism):何事もポジティブに考える 
4 柔軟性(Flexibility):こだわりすぎずに柔軟な姿勢をとる 
5 冒険心(Risk Taking):結果がわからなくても挑戦する

今回の栄一の養育院エピソードは、まさにこの5つが当てはまっているのではないだろうか。社会事業に強い興味はなかったものの、任命されたことで、興味を持ち、その後も継続する。
次に、養育院が廃院しそうなときでも、あきらめなかったし、なんとかなると出金者を募るため、努力と挑戦をし続けた。そして、市税に頼らず、寄付を募るという柔軟な姿勢が見受けられた。もちろん結果なんて分からなかったことだろう。
何かもやもやする、置かれた環境が違うと思っている方がいらっしゃったら、この事例を参考と5つの行動特性を参考に、新しい行動を起こしてみてはいかがだろうか。さて、私は何を始めてみようか。考えたら笑みがこぼれてきた。



引用文献
※1:デジタル版『渋沢栄一伝記資料』第24巻
※2:東京都健康長寿医療センターHP
※3:渋沢秀雄 『父渋沢栄一』実業之日本社
参考図書:
城山三郎 『雄気堂々 上下』新潮文庫
渋沢栄一 『雨夜譚』岩波書店
木村昌人『渋沢栄一 民間経済外交の創始者』中公新書
河合 敦『渋沢栄一と岩崎弥太郎 日本の資本主義を築いた両雄の経営哲学』 幻冬舎新書
島田昌和『渋沢栄一の企業者活動の研究』日本経済論社
島田昌和『社会起業家の先駆者』岩波新書

筆者:
株式会社ジェイフィール
和田 誠司

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