村田 太2025.08.08
こんにちは。ジェイフィールの村田です。
前回、学校と社会のあいだにある「静かな分断」についてお話ししました。
その分断は、学校の中にも存在しているのではないか。そんな思いから今回は、校長先生という存在に目を向けてみます。
子どもや学生の頃、校長先生にはどんなイメージを持っていましたか?
厳格、近寄りがたい、優しい、頼もしい…。小学校と高校でも、また印象が違ったかもしれません。
では、「校長先生は孤独である」 そんなイメージはあったでしょうか?
昨年、とある県で行われた校長先生向けの研修をジェイフィールで実施しました。
約50名の校長先生が参加し、グループワークの場は、笑顔と温かさに包まれていきました。
その様子を見て、研修を企画した県の担当者の方がぽつりとつぶやいたのです。
「校長先生って、あんなに笑うんですね」
私はその言葉を聞いた瞬間、前回のコラムでご紹介した保護者の声が脳裏をよぎりました。
「校長は社長みたいなものでしょう? だったら、責任をとって説明するべきでしょう」
学校は企業と同じなのか?
私たちが企業でリーダーシップやマネジメントを語るとき、そこには「明確な成果」や「効率的な組織構造」という前提があります。しかし、学校はまったく違う世界にあります。
東京学芸大学の末松裕基准教授は、『教職研修』(2025年4月号)の中で、学校組織の特性についてこう指摘しています。
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学校の場合、「利潤追求」のような明確な目標を持たず、活動の成果も数値で測定できない。「子どもたちの成長」「人格の完成」など、組織目標は曖昧で抽象的な上、本来は一人ではとうてい対応しきれないはずの子育てという営みを一人の教師が丸抱えしてしまう構造になりがちです。
さらにこうも述べています。
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関係者も教員だけでなく保護者や地域住民、行政などとの関係の在り方が重要で、関係者は非常に多様で複雑です。企業と違って自律性は強くはなく、合理的な分業体制も築きにくいのが実態です。
こうした“正解が見えにくい”環境の中で、校長先生は現場と関係者をつなぎながら、学校の「らしさ」を守り、進むべき方向を見極めることを求められます。
一方で、そんな現場の複雑さや曖昧さは、社会や保護者の目には見えにくいまま、「校長=教育現場のトップ」と単純化したり、「責任者=説明すべき存在」としての校長像だけが浮かび上がってしまう。そこに私は“分断”の気配を感じたのかもしれません。
リーダーは“引っぱる人”ではなく、“間に立つ人”かもしれない
これは、企業でも学校でも変わらない本質ではないでしょうか?
実際、研修に参加した校長先生たちの声を振り返ると、そのことがよく伝わってきます。
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リーダーは、人と人、人と組織をつなぐ存在。 教職員の能力に寄り添い、思いやりをもって関わることが求められる。校長としてのあり方を改めて問い直した
※校長先生の振り返りより(2024年度 学校マネジメント研修)
「組織を引っ張るだけでなく、心からつながり合える場をつくることが大切。職員一人ひとりと丁寧に対話するところから始めたい」
※校長先生の振り返りより(同上)
こうした言葉に触れるたびに、私は思います。
校長先生とは、本来「トップ」ではなく、「間に立つ人」なのだと。
ジェイフィールでは、リーダーのあり方として「コネクティングリーダー」というコンセプトを提唱しています。
対話型のリーダーシップで他者とつながり、他者とともに方向を定め、ともに動き出せるリーダーです。
子どもと大人、教職員と地域、教育と社会。
その境界に立ち、見えない声を聴き、静かに方向を定める。
校長先生の本質はコネクティングリーダーなのかもしれません。
企業社会から見れば、校長先生の仕事は理解しにくく、時に評価も困難です。
けれど、その誤解やすれ違いこそが、「教育と社会の分断」を生んでいるとしたら?
見えにくさに目をこらすこと。
声なき声に耳をすませること。
それが、私たちにできる“つながる一歩”ではないかと思います。
校長先生のリーダーシップの“見えにくさ”は、そのまま、学校と社会の分断を映しているのかもしれません。
では、学校の中ではどうでしょうか?教職員同士、あるいは校長と教員の間にも、目に見えない“すれ違い”や“対話の不在”があるとしたら。
次回は、「対話」というキーワードから、学校組織の内側にある静かな分断を見つめてみたいと思います。
出典表記:
• 本文中の学校組織に関する記述は、東京学芸大学 末松裕基准教授による寄稿『教職研修』2025年4月号(教育開発研究所)より一部引用。
• 校長先生の言葉は、2024年度「学校マネジメント研修」参加者による振り返りシートから抜粋しています。
• コネクティングリーダー(https://www.j-feel.jp/key-method/connecting-leader/)