正木 宏和2026.01.30
■ 「静かなる分断」への葛藤
本記事は書籍[『静かに分断する職場』の実践編としてスタートした、「対話型ファシリテーター養成ゼミ」第1回の開催レポートです。職場に静かに広がる「分断」に、私たちはどう向き合っていけばよいのか。その難題に向き合う中で交わされた参加者たちのリアルな声や葛藤を、当日のゼミの様子とともにお届けします。
リモートワークの定着、働き方の多様化、世代や役割の違い。私たちの職場は、以前にも増して「違い」が当たり前の場になっています。一方で、その違いをうまく扱えないまま、関係が少しずつ薄れ、静かに距離が広がっている──そんな感覚を抱く人も少なくありません。こうした「静かなる分断」を超えて、つながりを取り戻すための対話と関係づくりを、隔週90分・全6回のゼミ形式で実践的に探っていく場として「対話型ファシリテーター養成ゼミ」はスタートしました。
■ 客観視する:今何が起こっているのだろう
「あなたの周りで『分断しているかもしれない』と感じる場面はありますか?」
冒頭に投げかけられた問いに対して、役割も世代も異なる参加者から、次々と声が上がっていきます。ある参加者は、リモートワークの功罪をこう語りました。
「個人個人では快適。でもその一方で、部門を越えて何か新しいことを生み出そうとすると、コミュニケーションのハードルが高くなっている感じがします」
また、役割や経験の違いが「言いづらさ」を生む場面も共有されました。
「その道20年のベテランの方に、自分の違和感とかは、簡単には言えないですよね」
相手を尊重するがゆえに踏み込めない。その結果、本音が交わされないまま、表面的な関係にとどまってしまう──。上司・部下の関係については、こんな声もありました。
「こうしたほうがいいんじゃないか、と思うことはある。でも、言うのが面倒だし、言ったところで何も変わらない気がして……」
様々な本音が出てくる中で、視点を内側に向ける声も出てきました。
「よく考えると、自分のほうが無意識に壁を下ろしている気もします」 「分断している原因って、半分以上は自分側にもあるのかもしれない」
分断は、誰かが一方的につくるものではなく、関係の中で知らず知らずのうちに一緒につくっているものなのかもしれない。徐々に「静かなる分断」の輪郭が生々しく浮かび上がってきます。このゼミでの対話の始まりは、こうした状況にすぐに解決策を出すことでも、正解を探すことでもありません。まずは、自分たちの職場で何が起きているのかを、客観的に捉え直すことでした。
冒頭で語られた参加者の声は、「誰が悪い」「どこが問題だ」という議論には向かいません。むしろ、自分たちが置かれている状況を、少し距離をとって眺め直すところから、対話は静かに始まっていきます。そして、ゼミでは客観的に見えてきたその状況の「背景を知る」対話へと進んでいきます。
■ 背景を知る:大切にしているものは何?
対話が進む中で話題に上がったのが、仕事との関わりを最小限にし、「ここまで」と線を引く人たちの存在でした。
「意欲が低いのでは?」
「自分を守りすぎているのでは?」
といった見方が出てきます。すると、ある参加者の経験が、その見方を揺さぶります。
「私自身も家庭が最優先で、そこは絶対に守りたい。だから最初から『私はここまでです』と線を引くときもある。」
ここで、行動の裏にある背景に目線が向きます。そこから、
「子育ても推し活みたいなものかもしれない」 「何かを大事にしているからこその線引きだよね」
そんな声が重なり、多様な背景が語られるにつれて、分断の背後にある心理や構造にも少しずつ共感が生まれてきます。
背景に目を向けたあと、対話は自然と、より本質的な問いの探求へと進んでいきました。
■ 本質を問う:私たちは、何を共有すればいいの?
「では、私たちは何を共有すれば、一緒に働けるのか?」
「目的を共有する」「会社のビジョンに立ち返る」といった声も出る中で、参加者の中からはこんな問いが出てきました。
「会社のビジョンに共感している、という前提って本当に成り立っているのだろうか?」
ありのままを見ることの難しさを感じながら、ある参加者はこんな声を上げてくれました。
「全員が同じ目的を持つというよりも、一人ひとりが納得して働ける状態をどうつくるかを大事にしたい」
他方で、「それぞれの納得感」を尊重するだけでは、再び別の分断が生まれてしまうかもしれない。
「自分だけ幸せ、ってやっぱり成り立たないと思うんですよね」
■ 探求する:「共通善」という動的なプロセス
参加者からのこの言葉をきっかけに浮かび上がったのが、「共通善」という考え方でした。それは、誰かの正しさを採用することでも、一つの答えに収束させることでもありません。行き来しながら、対話を重ねながら、自分たちなりに「共通して大事にできるもの」を探し続けること。
約2時間の対話を終えたとき、参加者の中には、これから探求していきたい問いや気づきが残っていました。
「「重なる」でなく「つながる」から考えたい」
「こうした対話の場の大切さはどうしたら共有できるのだろう…」
「正解に導くより、同意できる何かを一緒に探したい」
「お互いのことを、実はちゃんと分かっていなかったかもしれない」
本ゼミが大切にしているのは、まさにこの「探求し続ける姿勢」そのものです。客観視し、背景を知り、本質を問い、探求し続ける。この日のゼミの対話では、こうしたプロセスを体験しながら辿ってきました。
このゼミで扱う問題には、全員に効くような特効薬はないかもしれません。それでもこの場所が、一人ひとりが対話を通してつながることができる、そんな実感を広げていくための起点に、きっとなってくれるはずです。
■ 対話の旅は、これからも続く
この「静かなる分断」を超えるための探求の旅は、第2回以降も続いていきます。次回は、今回の対話を踏まえ、そもそも本質的な対話が生まれやすくなる関係性とは何かに目を向け、「関係づくりの土壌を耕す」ことをテーマに、より実践的なステップへと進んでいきます。
対話は、スキルだけで成立するものではありません。安心して違いを持ち寄れる関係性、その関係性を育むための姿勢や人間観などが響き合って、はじめて深まっていきます。その土台をどうつくるのかを、参加者同士の対話を通じて、引き続き探っていきます。
このレポートを読んで、
「自分の職場にも、似たような見えない壁があるかもしれない」「もう一歩、関係を問い直してみたい」
そんな小さな引っかかりを感じた方は、ぜひこの対話の輪に加わってみませんか。
※本ゼミは、Day2からのご参加も歓迎しております。ご関心をお持ちの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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