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「コミュニティシップ」とは?【インタビュー】

ジェイフィール2023.07.26

”Community-ship”

共同体を意味する「Community(コミュニティ)」に「-ship」が付くと、どのような意味を持つのでしょうか?
今回はジェイフィールの中で頻出の「コミュニティシップ」に関して、その言葉の意味や誕生した背景、コミュニティシップが重要な役割を担う理由などを、ジェイフィールの重光直之さんと村田太さんに伺いました。



 
 

「コミュニティシップ」とは?

 
 

-       本日はよろしくお願いします。まずは「コミュニティシップ」とは?という質問から始めさせてください。



重光さん
言葉自体は、ヘンリー・ミンツバーグ教授が提唱した造語なので、一般的には馴染みがないかもしれませんね。ヘンリーは「コミュニティシップ」に関して、「自分の居場所を得ることによって自分を取り戻して、さらに自身でその居場所をより良いものにしていこうとする姿勢である。」と言っています。
先日のジェイフィールのウェビナーでは「主体者・主権者」という言葉を使いましたが、自分が主体者となってコミュニティのメンバーと一緒に力を合わせて、何か行動を起こしていく気持ちや姿勢のことを「コミュニティシップ」だとイメージしています。


村田さん
自分の居場所だと感じると同時に何かその場に対して貢献しよう、働きかけようという気持ちになって初めて、「コミュニティシップ」が生まれて、その集合体がコミュニティになります。
これはジェイフィールが行っている組織感情診断でいう「存在実感」に近いです。自分がこの場所にいていいんだという感覚を持てている状態。自分の存在がちゃんと認知されて、自分もそこに対して価値を提供するんだと思えることが大事なんです。誤解してほしくないのは、そこにいるだけではなく、価値を提供しようと思う姿勢がないと、ミンツバーグ教授のいう「コミュニティシップ」ではなくなってしまうということですね。

「組織感情診断」についてのインタビュー記事はこちら



 
 

「リーダーシップ」と「シティズンシップ」の間

 
 

-       「一人ひとりが自分たちの居場所に貢献しようという姿勢が大事だ。」というミンツバーグ教授の考えの背景には、どのようなことがあったんでしょうか?



重光さん
ヘンリーが「コミュニティシップ」に関する論文を発表したのが2009年ですが、当時は「リーダーシップ」というものが過度に称賛されていた時期でした。それが社会の歪みを生んで、社会全体が良くない方向に向かっていると感じていたんだと思います。
バブル以降のIT革命によって、多くのアメリカ企業が世界中を席巻しましたが、その一方で歪んだ社会や組織の在り方によって、「人が人らしくあることが難しくなっている」ということを彼は懸念していました。


村田さん
ミンツバーグ教授の書籍の『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』にある「ヒーロー型マネジメント」と「関与型マネジメント」の比較でも、トップダウン型の変革リーダーのようなカリスマを過度に称賛するべきでないと言っていますね。彼は「とにかく、リーダーシップがあればいいんだ。」という風潮に、異を唱えたかったんだと思います。



「ヒーロー型マネジメント」と「関与型マネジメント」の比較

そういう背景で「リーダーシップ」と「シティズンシップ」の間を表現する言葉を作りたかったと言っていましたよね。「リーダーシップ」だと強すぎるし、逆に「シティズンシップ」だと何か物事を変えていくという姿勢は見られない。その間の表現として、一人ひとりが主体となって貢献するという「コミュニティシップ」の概念が生まれたんだと思います。


重光さん
ヘンリーはよく「我々はヒューマン・リソース(human resource)ではなく、ヒューマン・ビーイング(human being)なんだ。」と言っています。そういう、人が人として尊重されていない状況に疑問を持っていたんじゃないでしょうか。


村田さん
企業において、人をどう見るのか。時代とともに変化して、最近は大手企業を中心に人的資本経営が重要課題になってきています。しかし、人的資本という考え方は既に2000年代からありました。
これは、人はコストではなく、投資対象であるという考え方へのシフトです。経営戦略と人材戦略を連動させていくという大きな流れが日本企業全体に起きていることはとてもいいことだと思っています。
しかし、それでも人を経済的観点から見るという意味では人的資源に近い考え方だと感じます。

ミンツバーク教授の「ヒューマン・ビーイングだ」という提唱は、今から考えると、ヒューマンキャピタルを越えて更に先を示していたものです。
ここでは、人という存在を、ジェイフィールが大切にしている感情と意思をもった人間そのものと捉えています。

人的資本経営も、メッセージを間違えると結局は企業価値向上の手段として人を経済的視点からしか見ていないとも捉えられてしまいます。
コロナ禍で顕在化したように、そもそも人とは多様であり、絶えず他者との関係において存在している社会的な生き物なので、社会的視点で見るべきです。ここもコミュニティシップにつながりますね。
 
 

-       当時も今も、企業はヒューマン・リソースを駆使して利益を最大化するということが当たり前な雰囲気がありますね。



重光さん
そうですね。そこから徐々に一人の偉大なリーダーが多くのフォロワーを従えて事業を推し進める限界が見えてきて、虐げられたような働き方を強制されたくないという人や、社会全体が地球環境も含めてバランスを崩していることに違和感を覚える人たちが増えた結果、社会全体の価値観が変わっていきました。
そういった中で企業自体もそういう姿勢を見直さないと、良い人材も集まってこない。良い人材がいなければ、良いパフォーマンスを発揮できないという状況になったんだと思います。


村田さん
最近のアメリカでのリーダーシップ論や組織論は、当時ミンツバーグ教授が言っていたことに寄ってきている印象があります。それによって以前のリーダーシップ像との二極化、分断なんていう懸念もあるみたいですが。


重光さん
今は先行きが不透明で、将来の予測がきわめて困難な「VUCA(ブーカ)の時代」と呼ばれていますが、そういう状況では一人の人に情報を集めて一人の人が全てを判断するというのは正しくないと言われています。もちろん、本当の正解はまだ誰にもわかりませんが。


村田さん
ミンツバーグ教授が「コミュニティシップ」を提唱したのが2009年と考えると、本当に早いというか、いつも彼は時代の先を行っているなと驚かされます。



 
 

ジェイフィールの「コミュニティシップ」

 
 

-       企業にとって「コミュニティシップ」は他人事ではないんですね。ここから少しジェイフィールについても聞きたいです。「時代の先を行っている」という意味では、ジェイフィールも立ち上げ時から「コミュニティシップ」という概念を持っていたのではないでしょうか?


重光さん
そうですね、当時の日本では、そういう概念は当たり前ではありませんでした。ミンツバーグ教授が、マネジメントや経営の在り方に「コミュニティシップ」という考え方が大事なんだということを先に示してくれていたので、そこにまず共感したというところが大きかったです。


村田さん
もともとみんなで力を合わせてやっていたはずの仕事が、成果だけで評価されるようになって、気づいたら自分の居場所だった会社が我慢する場所に変わってきた。そういう当時の日本の社会に漂う閉塞感みたいな雰囲気の中で、ミンツバーグ教授が言っている「本来は一人ひとりが活力を感じる場所であるべきだ」というコミュニティシップの概念は、ジェイフィールが持っていた想いと重なったんじゃないでしょうか。


重光さん
改めて考えると、「コミュニティシップ」を経営の側面で言えば、ジェイフィールが大事にしている「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだ。」という状態のことかもしれませんね。ジェイフィールの立ち上げのときに「感情を大切にしよう、Just Feel。」と言っていたのは、ヘンリーでいう「我々はヒューマン・リソース(human resource)ではなく、ヒューマン・ビーイング(human being)なんだ。」というのと同じ。
とはいえ、先程も言ったように、立ち上げ当初、社会ではそういうことは当たり前ではないですから、現実的に「感情」だけで会社がやっていけるのかと、何度も心が折れそうになりましたね。「感情は大切だけど、金勘定も大事」とか冗談を言っていたりもしました。笑



村田さん
「コミュニティシップ」はジェイフィールにとって根本の部分なのかもしれませんね。いろいろと言葉は変わっていますが、もとを辿ればすべて「コミュニティシップ」に繋がる気がします。「人のための組織づくり」と言っているのも、先日のウェビナーの「人間らしさを取り戻そう」というのもそうですよね。



 
 

「コミュニティシップ」の具体例

 
 

-       ジェイフィールにとって「コミュニティシップ」という概念は本当に大事なんですね。「コミュニティシップ」をもう少し具体的にイメージしたいのですが、実際に「コミュニティシップ」が体現された事例を教えて下さい。


重光さん
「CoachingOurselves」の拡がり方は、まさに「コミュニティシップ」が体現された例だと思います。CoachingOurselvesはヘンリーの義理の息子にあたるフィル・レニールが立ち上げたプログラムで、元々はヘンリーが作った「IMPM(International Masters Program for Managers)」というプログラムを参考にしています。

今考えても本当に不思議なことですが、偶然にもこのCoachingOurselvesが生まれる打ち合わせをフィルとヘンリーがする日と、私がヘンリーのもとを訪れた日が重なったんです。さらには、私の持ち寄った相談が「現場のミドルマネジャーが元気になるには」という内容で、それはフィルが抱えていたものと似通っていました。

それでその日の夜に、私も同席していろいろな話をして生まれたのが、CoachingOurselvesです。日本では「リフレクションラウンドテーブル」といって、ジェイフィールが日本で展開しているプログラムとなっています。CoachingOurselvesはその後、ヨーロッパ、オーストラリア、ブラジルと世界中に拡がっていき、気づいたらワールドワイドなプログラムになりました。

「コミュニティシップ」が体現された例というのは、まさにこの拡がり方で、このムーブメントの中で、ヘンリーがなにか権威を持って「こうしよう!」としたわけではないんですね。私含め名もなき人たちが課題意識を持って集まって、少しずつ何かをやっていくとそれがムーブメント的に拡がっていった。こういう動きが「コミュニティシップ」の一つの例かなと思います。

CoachingOurselvesはこちら

IMPMはこちら

「リフレクションラウンドテーブル」が生まれた背景についてのインタビュー記事はこちら


村田さん
ジェイフィールが関わっていた例で言うと、日本に1000店舗ほど展開をしている某大手ファミリーレストランの企業があります。ファミリーレストランは基本的にチェーンオペレーションなので、完全に合理的に効率化されたオペレーションを作って、商品を素早く、安価に提供して利益を生み出す業態です。決まったオペレーションに人を当てはめるので、ある意味「コミュニティシップ」とは真逆ですよね。


重光さん
当時の社長は「自燃型組織(じねんがたそしき)」にしたいということを言っていました。社員でもアルバイトでも、自ら燃える、つまり自分で考えて自分で行動できる人が集まる組織になることを望んでいたんですね。
一見チェーンオペレーションの理論とは矛盾するように思えるんですが、結局のところ指示されたことを単にこなすだけでは限界があるんじゃないでしょうか。冷蔵庫が急に壊れたとか、お客様がこのようなことを言い出したとか、現場の店舗では日々、不測の事態が次々と起こります。そういう問題に対してその都度現場の一人ひとりが考えて対処できなければいけないと考えていたんだと思います。


村田さん
そこで、社員だけでなくアルバイトも含め、店舗にいる一人ひとりが「コミュニティシップ」を発揮して「店舗をコミュニティに変えていこう」という取り組みを始めました。
「お店(職場)は決まった仕事を辛いながらも我慢して、お金をもらう場」という認識から、「お客様に喜んでもらって、自分も成長できる場」というように、お店の位置づけや在り方を変えていくイメージを先方と共有しました。


重光さん
結果的に、店長だから絶対的な人事権をもつとか、社員だから現場のオペレーションやシフトを決めるとか、そういう肩書に縛られない、フラットな組織に変わっていきました。例えばお客様に喜んでもらうような接客は、普段から直接お客様と接しているアルバイトの方のほうが詳しいわけですよね。その場合、接客のリーダーはそのアルバイトの方にやってもらうといったように、立場上の垣根をなくしたのはとても大事なことだったと思います。


村田さん
3年ほどしっかり関わらせていただいたあとに、残念ながらコロナの時期と重なって最後の仕上げが出来ずに終わってしまったのですが、それ以降でも、組織構造をもとに戻したりはせず、リフレクションラウンドテーブルのコアであるマネハプ(マネジメントハプニングス:日頃のマネジメントにおけるハプニングスについて話すこと)は続いていると聞いています。今になっても、根本の思想の部分は変わらず継続していただいているのは、やってきたことに意味はあったのかなと思いますね。

「マネハプ」に関する詳しい説明はこちら




-       真逆とも思える業態でも「コミュニティシップ」が重要な役割を担ったのはとてもおもしろい例です。



村田さん
「コミュニティシップを導入することによって、職場や店舗、組織自体の意味や在り方が変わっていく」ということが「コミュニティシップ」の醍醐味的な部分ですね。
ミンツバーグ教授は「古き良き日本の企業はもともとそういう場だった。新しく作るのではなく、そういう良い部分を取り戻そうよ。」と言っています。特に製造業とかでは、現場の社員が様々な改善活動を愚直に行っていたりしますよね。ただ、それが今では、スピードが求められる中で品質が求められたりと、昔以上に要件が厳しくなってしまって、人と繋がって物を作るとか研究するというやり方を失ってしまった。成果主義やKPIみたいなものに追われ続けた結果、いつしかそれが不正に繋がって、組織が破綻してしまうといった例もあります。
もちろん、完全に昔のやり方に戻すというわけではありませんが、昔の良い部分を取り入れていく、そういう部分において「コミュニティシップ」が大事になってくるのではないでしょうか。



 
 

「コミュニティシップ」はじめの一歩

 
 

-       「コミュニティシップ」の必要性が理解できてきました。最後のセクションとして、どのようにしたら「コミュニティシップ」を実践できるか?というお話を聞きたいです。また実践するにあたって大事なことも教えてください。


重光さん
「コミュニティシップ」の進め方として、ミンツバーグが用意している資料にはいくつかのステップが書いてあります。

「コミュニティシップ」を進めるステップ

「愛着心」というのは、自分自身がその場に愛着を感じて何か良くしていきたいという気持ちを持つことで、これがすべての出発点となります。フィルも「まずは、誰かを頼るとか探すのではなく、自分たちがどうしていきたいのかということを前向きな姿勢で考えることが出発点として大事である。」と言っています。
その次の「連結」で、考えたことをチームに共有し、「影響」で、組織に影響を与えるためにアイデアをより深めて、「伝播」でそのアイデアを拡げていきます。この動きが大きくなってきたら「統合」といって、例えば、CoachingOurselvesが世界各地に拡がったあとにそれを一度集めて戦略としてまとめたようなことをやっていきます。最後の「啓発」では、より良い社会をつくるという社会的な視点をもって、さらにコミュニティを拡げていくというフェーズになります。
時間の関係でざっくりとした流れのみの紹介となりましたが、結局は「自分たちは何をすべきか」と問いながら、自分を取り戻すという出発点の部分が特に大事だと思います。


村田さん
ジェイフィールのホームページに株式会社ディー・エヌ・エーさんの記事がありますが、まさにこれは思いを持った人たちが声を上げたことで、最初は小規模だったのが徐々に周りに拡がって賛同者が増え、最終的には社長直轄のプロジェクトになった事例です。
経営者がトップダウンで進めるのではなく、思いを持った個人が声を上げて草の根的に拡がっていくのは、まさに「コミュニティシップ」の真髄だなと思いますね。

”若き有志が草の根運動で立ち上げた「コミュニティ」が会社全体の活動に!”に関する記事はこちら

 

-     組織の中で「声を上げる」ことは、ある程度の勇気が必要ですよね。



村田さん
ディー・エヌ・エーさんで声を上げた方も、「賛同者がいないかもしれないと、最初は怖かった」と言っていましたね。ただ一歩勇気を持って踏み出してみると「実は、自分もそう思っていたんだよね。」と賛同者がたくさんいた。なので、勇気とか言ってしまうと抽象的になってしまうのですが、やっぱり最初の一歩を踏み出さない限りは難しくなってしまうかなと思いますね。


重光さん
そういう意味では、個人の悩みとか思いを気軽に吐露できるインフォーマルな場所をたくさん作るということは必要なことかもしれないですね。「今がつらい」とか「こういうことに違和感がある」とかそういう小さなことからで良いので。
こういう話をすると、「話を聞いてくれる人がいる人はいいですよね。私の周りにはそういう人がいません。」という声が聞こえてくるんですが、最初から「私はあなたの賛同者です。」と言ってくれる人がいないのは当たり前なんですよね。まずはそういう出発点となるきっかけや場を作って、自分の思いを吐露してみるということが大事なのかなと。
すべてが上手くいっている会社は存在しないので、マネジャーやトップ層でもなにかしらで悩んでいて、組織をより良くしたいという思いを持っている方はいるはずなんですよね。なので、そういう人も組織にいるはずだという信頼というか、期待みたいなのは忘れてはいけないのかなと思います。


村田さん
自分たちでやっていくのが本当に難しい場合は、外部の力に頼るという方法もありますよね。実際にそういう相談はジェイフィールにいただいていたりしますし。「コミュニティシップを醸成したい」という直接的な相談はないですが、相談内容をよく聞いていくと結局「コミュニティシップ」の問題なことが多い印象です。


重光さん
そうですね。外の人と繋がることも大事です。うちの会社って実際どうなんだろうと俯瞰できて、もしかしたらそんなにひどい状況じゃなかったと思えるかもしれないし、深刻な状態だったらなにか手を打つきっかけにもなります。



-     まずは最初の一歩として、誰かに思いを吐露できる場が、それが内部であれ、外部であれ、とても重要ということですね。


村田さん
そうですね。そういう場を誰かに用意してもらうのではなく、そこにいる一人ひとりが自分の居場所を作るということが「コミュニティシップ」においては、大事なんじゃないかなと思います。



-     本日はありがとうございました。

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