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市民性は、なぜ続かないのか ~個人の意志に任せないために~
コラム 第2章「教育と社会の分断をつなぐ」 第7回

村田 太2026.06.16

こんにちは、ジェイフィールの村田です。

第一章の最終回で、私はこう書きました。
「市民性は、育てようとして育つものではなく、気づいたら育っていた」

あれから、4カ月が経ちました。
教育と社会をつなぐプロジェクトへの問題意識が消えたわけではありません。
むしろ、シチズンシップや民主主義について、もっと深く考えたいという思いは強くなっています。

実際、この4カ月のあいだに、関連する本もいくつか買いました。
『こどもと民主主義をつくる』
『民主的社会をつくるシチズンシップ教育』
デンマークの教育に関する本、ジョン・デューイに関する本。

ただ、正直に言えば、その多くはまだ本棚に並んだままです。

その間、私は目の前の組織変革の仕事に、多くの時間とエネルギーを注いでいました。
日々の仕事、会議、資料づくり、対話の場づくり。
それらに向き合っているうちに、気づけば4カ月が過ぎていました。
もちろん、それ自体が悪いことだとは思っていません。
組織変革もまた、人がどう当事者になっていくのかを考える、大切な実践の場です。

ただ一方で、第一章の最後にあれほど大切だと感じていた「市民性」や「民主主義」という問いが、日々の忙しさの中で、少しずつ後ろに下がっていったことも事実でした。

そのとき、ふと思ったのです。
市民性が「気づいたら育っていた」ものだとすれば、
同じように、気づいたら途切れてしまうものでもあるのではないか。
これは、単に私の意志が弱かったという話ではないと思います。
むしろ、ここにこそ、日本で市民性が育ちにくい理由の一端があるのではないか。
そんなことを、この4カ月の自分自身を見ながら考えていました。

市民性という言葉は、どこか立派に聞こえます。
民主主義という言葉も、少し大きすぎる言葉に感じます。
けれど、本来それは、特別な人だけのものではないはずです。

選挙に行くことだけでも、社会活動に参加することだけでもない。
自分の暮らしや仕事が、社会とどうつながっているのかを考えること。
目の前の違和感を、なかったことにしないこと。
誰かと対話しながら、少しだけ自分の立ち位置を動かしてみること。

第一章では、私はそれを「半径が動く」という言葉で表現しました。
ただ、現実には、この“半径を動かす”ことがとても難しい。

多くのビジネスパーソンは、日々の仕事に追われています。
目標があり、会議があり、締切があり、責任があります。
家庭では、家族のこと、子どものこと、親のこと、生活のことがある。
その中で、教育のこと、地域のこと、民主主義のこと、社会の未来のことを考え続けるのは、簡単ではありません。

これは、誰かの意識が低いという話ではないと思います。
私たちの社会は、そうした問いを後回しにしやすい構造になっているのではないでしょうか。

特に日本では、長い間、働くことが社会参加の中心にありました。
会社に所属し、仕事を通じて社会に貢献する。
その感覚は、多くの人にとって自然なものだったと思います。
もちろん、それ自体を否定したいわけではありません。
仕事は社会を支える大切な営みです。
私自身も、企業の中で人や組織が変わっていくことに深く関わってきましたし、そこに大きな意味を感じています。

ただ一方で、働くことが社会参加のほとんどを占めてしまうと、
私たちはいつの間にか、会社員としての顔だけで社会と関わるようになります。

保護者として。
地域住民として。
一人の市民として。

そうした複数の顔が、日々の忙しさの中で見えにくくなっていく。
私たちは少しずつ、社会を「自分たちでつくるもの」として感じにくくなっているのではないか。
最近、そんなことを強く感じます。

もしかすると、多くの大人にとって、社会はすでに「自分たちでつくるもの」ではなくなっているのかもしれません。
誰かが決めるもの。
専門家が考えるもの。
行政や学校や会社が整えてくれるもの。
自分は、その中で日々の役割を果たしていくもの。

そんな感覚が、知らず知らずのうちに染み込んでいるのではないかと思うのです。

でも、教育現場に目を向けると、そこに別の可能性も見えてきます。
先日、大分県玖珠町にある、くす若草小中学校ドリームマップ®授業を行いました。
この学校は、単に不登校を経験した子どもたちを学校に戻す場所ではないのだと思います。
むしろ、子どもも大人も、もう一度社会とつながり直す練習をする場所なのではないか。
そんなことを感じました。

安心できる場の中で、自分の好きなことや夢を見つける。
他者の違いに触れながら、自分の言葉を少しずつ取り戻す。
その先に、学校の外にある社会や地域との接点が少しずつ見えてくる。

これは、子どもたちだけの話ではありません。
大人もまた、社会とつながり直す練習が必要なのではないか。
そう考えると、市民性は「持ちましょう」と呼びかけるだけでは育たないのだと思います。

「関心を持ちましょう」
「もっと主体的になりましょう」
そう言われても、日々の生活に余白がなければ、問いはすぐに後ろへ下がってしまう。

市民性が続かない理由は、個人の内側だけにあるのではなく、
私たちの日常の組み立て方そのものにあるのではないか。
だからこそ、第二章では考えてみたいのです。
市民性を、個人の意志や善意だけに任せていてよいのか。
気づいた市民性を、どうすれば途切れさせず、育ち続けるものにできるのか。
市民性は、特別な誰かのものではない。
けれど、放っておけば自然に育ち続けるものでもない。

忙しい日常の中でも、もう一度問いに戻ってこられる場や関係性。
教育、企業、地域、家庭の中で、自分の半径がふと動くような経験。
そうしたものを、どうつくっていけるのか。

「教育と社会をつなぐ、その先へ」。
第二章は、この問いから始めてみたいと思います。

次回は、なぜ日本では市民性がこれほど後回しになりやすいのか。
その背景にある「会社中心社会」と「余白のなさ」について考えてみたいと思います。


<これまでのコラム>
第6回 教育と社会をつなぐ、その「先」へ
第5回 大人が変われば、子どもは変わる
第4回 「対話」と「ウェルビーイング」が交わるとき
第3回 “当たり前”の中に潜む、学校の対話の不在
第2回 “あいだ”に立つリーダー、校長先生の見えにくさ
第1回 なぜ、学校の話を“わたし”が語るのか

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