ジェイフィール2026.08.03
2026年6月、マネジメントシェアリング研究会は提言書「一人で担うマネジメントの限界〜マネジメントを分かち合う組織へ〜」を発表しました。
本提言の発表に伴い開催されたウェビナーでは、研究会メンバーであるセンコーグループホールディングス株式会社の秋山氏、株式会社エクサの岡部氏をゲストスピーカーにお招きし、実践に向けたリアルな議論が交わされました。
本レポートでは、提言の要点と、現場でマネジメントシェアリングを模索する企業の実例やQ&Aをお届けします。
※登壇を予定しておりました芝野氏は、諸事情により欠席となりました。
第1部:なぜ今、マネジメントシェアリングなのか?
現代のマネジャーは、中長期的な戦略立案から、プレイング業務、エンゲージメント向上、ハラスメント防止などのコンプライアンス対応まで、非常に多岐にわたる役割を背負っています。マイナスインパクトの抑制(トラブル対応やメンタルケアなど)に追われ、本来注力すべきプラスインパクトの創出(中長期的な事業創造や人材育成など)に手が回らず、エネルギーが枯渇しているのが実態です。
その結果、現場の管理職ではないメンバーは「管理職になりたくない」と感じるようになっています。パーソル総合研究所の調査によれば、「管理職になりたい人」の割合において、日本は18カ国中ダントツの最下位(19.8%)という結果が出ており、将来のマネジャーの担い手不足は深刻な課題です。
こうした「1人で担うマネジメントの限界」に対する新たな選択肢として提言したのが、複数名で一つの組織のマネジメントを担う「マネジメントシェアリング」です。具体的な形として、すべての責任や役割を2人で共有する「ツインズ型」や、人材育成担当とプロジェクト進行担当のように得意分野で機能を分担する「アイランド型」などがあります。
これからの組織に求められる「免震構造」へのパラダイムシフト
しかし、こうした新しいマネジメントの形を取り入れようとすると、「マネジャーは1人で強くあらねばならない」「人事制度の公平性が保てない」といった理由で阻まれることが少なくありません。だからこそ、組織に対する見方や人事制度のあり方を根本から見直す「パラダイムシフト」が必要なのです。
これまでの組織や人事制度は、環境の変化に対して強固な仕組みで耐えようとする「耐震構造」でした。しかし、変化のスピードが速く複雑なこれからの時代は、大きな揺れに合わせて柔軟に動き、変化を吸収して取り込んでいく「免震構造」へと転換していく必要があります。一律で固定化された強固な組織ではなく、現場の変化に合わせて柔軟にかたちを変え続けることで安定を発揮する適応力こそが求められているのです。
第2部:ゲストとのクロストーク 〜現場のリアルと実践へのヒント〜
後半は、自社でマネジメントシェアリングの実験や検討を進めている秋山氏、岡部氏を交え、実践に向けたクロストークが行われました。
【登壇者プロフィール】
秋山 政泰 氏 センコーグループホールディングス株式会社/人材組織開発部 部長
岡部 吉秀 氏 株式会社エクサ/エグゼクティブアドバイザー 人事戦略本部
1. マネジメントシェアリングに取り組む背景
Q. 各社はなぜ、この新しいマネジメントの形に注目したのでしょうか。
秋山氏(センコーグループホールディングス):
育児や介護など、家庭のマネジメントは夫婦でシェアリングしているのが当たり前なのに、会社だけはなぜか1人に集中させ、全部できないとマネジャーにしないという仕組みに違和感がありました。私自身、定年を過ぎたタイミングであり、後に続く優秀な女性社員2名が育児などのライフイベントを経てもキャリアを中断せずに歩み続けられるように、マネジメントをシェアする体制を作りたいと考えています。当社は210社以上のグループ企業があるため、まずはこの体制の成功例を作ってグループ全体にも広げていきたいです
岡部氏(エクサ):
当社では、社員アンケートで「ライン職(管理職)の不人気」がワーストの状態として続いていました。誰もがライン職に挑戦したくなるような風土づくりに取り組む中で、新しい制度の参考として研究会に参加しました。しかし、他社の事例を学ぶ中で、制度をポンと落とすのではなく、まずは「関係性の土台づくり」や「相談することが当たり前という組織文化」から始める必要があると痛感しています。
2. 制度としての一律導入の限界と「対話」の重要性
Q. マネジメントシェアリングを社内に導入しようとする際、どのような壁があるのでしょうか。
岡部氏: マネジャーの負担を減らすために「室長に副室長やサポーターをつける」という形を提案したのですが、現場からは「ビジネスの種類も、メンバーの数も、マネジャーの得意技(プロジェクト管理が得意、ビジネス獲得が得意、人のマネジメントが得意など)も違うのに、一律の制度でやってもうまくいかない」というフィードバックがはっきりと返ってきました。制度ありきではなく、現場ごとの困りごとからアプローチする必要性を感じています。
秋山氏: 最初から人事制度として入れる必要はないと思います。仕事のシェアリングの前に、まずは「気持ちのシェアリング」から始めることが大切です。上司と部下が対話し、「そんなことで上司は悩んでいたんだ、一緒に考えるよ」というところから、自然とシェアリングが始まっていくのが理想的な形だと考えています。
3. Q&Aセッション:責任の所在と引き継ぎのリアル
参加者から寄せられた、実践上のリアルな疑問についても議論が交わされました。
Q. 複数人で分かち合うとき、最終的な責任の所在や評価はどう線引きするのでしょうか?
秋山氏: トライアル中のタンデム型(2人で担う形)の考え方としては、どちらかの責任ではなく「2人の責任」として、2人で完結してもらうことを想定しています。
岡部氏: 当社の想定では、責任を取るマネジャー(室長)を1人はっきりと決めた上で、副室長などがサポートする形を考えています。
北村(ジェイフィール): 現場で起きていることや会社ごとに正解は異なります。責任が曖昧になって混乱したら、その時にまたどうするかを考える。経営陣が「それでもまず進んでみよう」と後押しすることがスムーズな導入の鍵です。
Q. 自分の担当期間に業務が終わらなかった場合、どこで割り切って引き継ぐべきでしょうか?
秋山氏: そこも含めて「2人で決めてください」というスタンスです。例えば子どものお迎えで急に抜けなければならない時も、マネジメントとして2人でどうするかを柔軟に話し合って進めてもらうのが良いと思います。
岡部氏: 時間を分けてシェアリングする場合、前の人のやり残したことを後ろの人が引き継げるレベルの人同士でペアを組むなど、組み合わせ方の工夫も必要になると思います。
茅野(ジェイフィール): 引き継いだらパツッと切れるわけではありません。何のためにやっているのかを基準にし、対話をする時間が根付いていれば乗り切りやすくなるのではないでしょうか。
Q. 人材育成を現場や社員同士で行い、マネジャーの負荷を軽減する工夫はありますか?
岡部氏: 当社では、マネジャーがやらなくてもいい事務的な業務を巻き取るポジションに加えて、ベテラン層をサポーターとして配置し、人材育成などをサポートしてもらう仕組みを考えています。
秋山氏: マネジャーの仕事をシェアする人に任せるためには、その人たちが今抱えている仕事をさらに下のメンバーに落としていく必要があります。結果として、それがメンバー自身のスキルアップに繋がるという「押し出し式」で進めています。
Q. マネジメントシェアリングを採用した場合、報酬はどうなるのでしょうか?
北村(ジェイフィール): 現在のマネジャーと副マネジャーの体制のままシェアリングする場合は報酬もそのままのことが多いですが、課長を2人にするようなケースでは、両名の報酬を上げている会社もあります。ある企業は、「それはコストアップではなく投資であり、収入が上がるから構わない」と言い切っていました。
おわりに:これからのマネジメントのあり方
ウェビナーの最後、秋山氏は「今は昔と違い、誰も正解が分からない時代です。多様な価値観を持つ人たちが集まって答えを見出そうとする中、マネジメントシェアリングのような柔軟な働き方を早めに取り入れることが、企業が生き残っていくための鍵になる」と語りました。
また、岡部氏からは「現場だけで進めるのは大変なので、人事部門がHRBP(HRビジネスパートナー)的な立場で入り、現場の困りごとから一緒に解消していくアプローチがお勧めです」とのアドバイスも送られました。
マネジメントシェアリングは、単に業務を分担する制度ではありません。1人の強さに依存するのではなく、対話を通じて「気持ち」や「思考」を分かち合い、チームで成果を出していくための組織文化の変革です。
ぜひ、現場の小さな「困りごと」や「対話」を起点に、皆様の会社に合った新しいマネジメントの形を探求してみてはいかがでしょうか。
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▼登壇企業のご紹介
【センコーグループホールディングス株式会社】
センコーグループホールディングスは、物流をはじめ、商事&貿易・ビジネスサポート・ライフサポート・プロダクト事業の5つの重点事業領域を展開するホールディングスカンパニーです。
「人を育て、人々の生活を支援する企業グループとして、未来を動かすサービス・商品の新潮流の創造にたゆみなく挑戦する」を理念に掲げ、多様な事業を通じて社会課題の解決に取り組んでいます。
ホームページ:https://www.senkogrouphd.co.jp/
【株式会社エクサ】
株式会社エクサは、JFEスチールを母体とし、キンドリルジャパンを親会社に持つITサービス会社です。
技術力とお客様への共感を大切にし、上流のコンサルティングから開発・構築、運用・保守までの各種サービスを総合的に提供しています。
ホームページ:https://www.exa-corp.co.jp/
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