ジェイフィール2026.06.01
経営戦略論や組織論など経営学の泰斗である、マギル大学ヘンリー・ミンツバーグ教授の思想に基づき、2008年にスタートした「リフレクションラウンドテーブル®️(RRT)」。単なる知識の習得ではなく、経験を内省し、仲間と対話することでマネジャーとしての「あり方」を研ぎ澄ますこのプログラムは、導入した組織にどのような変容をもたらすのでしょうか。

対談の背景
2026年、かつてJT(日本たばこ産業)のIT部の組織のあり方を180度転換した鹿嶋氏と、その変革をRRTで支えた小森谷氏が再会しました。当時、JTのIT部は大きな変革期にありました 。それまでの「御用聞き」的な組織から、経営のレバレッジとなる戦略的組織への脱皮を求められていました。2009年から始まったこの取り組みは、単なる研修を超え、いかにしてマネジャーたちの「魂」を揺さぶり、根本から組織変容をもたらしたのか、その本質を語り合います 。
「フレームワーク・オタク」が陥ったマネジメントの不在
鹿嶋:東洋思想とマネジメントを掛け合わせた講演がきっかけで、小森谷さんと出会いました。当時の私はプロジェクトマネジメントを学び、実践していました。合理的、客観的な数値化できることにこだわる「フレームワーク・オタク」でした。でも、ツボや勘所、目に見えないところに本質があるという実感があって、それをずばり言語化してくれた小森谷さんの講演に共鳴しました。一方で、当時、外資から招聘した組織長からは「お前らマネジメントができてない」と突き放されたんです。
小森谷:あの頃のIT部は、一度子会社として売却された機能を「経営のレバレッジ」として取り戻そうとする、凄まじい変化と混乱の真っ只中にありましたよね 。
鹿嶋:ええ。6人のマネジャーが集まって、24時間働く勢いで全力でボートを漕いでいました。でも、マネジャー同士がサイロ化していて、自分の漕ぎ方しか信じていないから、船は一向に前に進まない。俺はこんなに漕いでいるのにと、イライラして相手を責める、空回りが続くという悪循環でした 。一人ひとりは、高いスキルと豊富な経験を持つ名プレーヤーなのにどうしてという忸怩たる思いが渦巻いていました。そこで藁をも掴む思いで小森谷さんに相談したのが、RRTだったんです。
小森谷:最初は30週に亘る取り組みに、「僕の人件費を知ってるか?それに見合わないのであれば、自分は参加しない。」と凄むマネジャーもいて、ピリピリしたスタートでしたね(笑)。
30週間の実践と「内省と対話」の往還活動:脳の使い方が変容していく
鹿嶋:RRTは、毎週90分、計30回というプログラムです 。最初は、新しい知識を詰め込むつもりでいたんです。でも10週くらいだったでしょうか、センスのある奴が「これは脳の使い方が違うね」と言い始めた。
小森谷:まさに。ロジックで正解を出す「一感」だけの世界から、五感すべてを開き、駆使して、見えない気配や、流れる空気、相手の言動の奥にある感情や背景にある思いに寄り添い、認識を深めていく世界へのシフトでした。
鹿嶋:中間の合宿が効きました。泊まり込みでガッツリ話し合う中で、自分たちがバラバラに漕いでいる現状が克明になった。五感を開く身体ワークを通じて、言葉の限界を知り、感情をもつ者同士の繋がりを理解し始めたんです 。
小森谷:あるマネジャーは「マネジメントの100本ノックを受けているようだった」と表現していましたね 。毎週違うマネジメントのテーマを突きつけられ、現場で実践し、また持ち寄って内省し、仲間と対話する。この反復が、じわじわと脳と身体に染み込んでいった感じでした。そして「自分たちは何者か」、「どのような価値を届けるのか」、「これからどうしたいのか」、「この後どのような人たちが育ったら嬉しいのか」という本質的な問いが、皆さんから生まれたことも印象に強く残っています。
「腹の底にある思いをぶつけた」先に立ち上がったコミュニティ
鹿嶋:そして20週目。ついに「本当の声」が出た 。火をつけたのは小森谷さんだけど(笑)、これまで隠していた「俺はこんなにやっているのに、お前が仕事してないから俺が大変なんだ!」という本音を全員がぶつけ合った。
小森谷:あの激しいやりとりはすごかった。でも、それができるだけの土台が、言っても受け止めてくれるだろうという信頼の土壌が20週間かけて醸成されていたのですね。
鹿嶋:やり合った末に、「俺が引っ張る」ではなく、「われわれ全体で価値を出す」という視座が、全員に立ち上がった。マネジメント・コミュニティが生まれた瞬間です。それぞれの思いを理解しあい、違いはあるけど、目指すところは一緒だよね、ともに進もうという、組織が命を帯びたような瞬間でした。
小森谷:そこから「みんなの部下」という言葉が出てきましたよね。自分の部署を超えて、IT部全体で次世代をケアし、フォローし、育て合うという感覚。組織という生命体に活力が宿ったように感じました。
鹿嶋:そうなると、不思議と楽になるんです。精神的ストレスが減り、マネジャーに「心の余裕と余白」が生まれた。これこそが、上司の言っていたマネジメントの正体だった。バラバラに頑張っていた6人が、共通の絵を見て、リズム、息遣い、進むべき方向が合った。ボートが、これまでが嘘のようにすーっと進み始める、あの感覚。新しい原動力が手に入ったような「何があっても大丈夫」という確信は、最高のギフトでした。余裕があるから部下も相談しやすくなり、組織サーベイのスコアも劇的に上がりました。それまでは「俺は忙しい、話しかけるな」オーラ満載でした(笑)。
小森谷:もともと思いも強くプレーヤーとしても優秀なマネジャーたち。せっかちで自分で口も出し、手も出す感じから、待つ、任せる、失敗しても、内省を促し、学習の舞台をつくる姿勢にシフトしましたね。共通言語が育ち、共通認識をもとに、コミュニケーションの焦点が絞られ、質感もぐっと深まっていました。
1万人に広がる「自走する組織開発」の種
鹿嶋:その後、私はスイスに赴任しましたが、RRTで手に入れた「マネジメントの行動原理」のおかげで、グローバルマネジャーの動きが手に取るように分かりました。また、現地のマネジャーたちと内省と対話の型「マネジメント・ハプニングス」を継続しました。現場主導の組織開発(OD)の実践でした。
小森谷:鹿嶋さんが戻られた後、JTではIT部だけでなく、内省と対話をベースに、全社的な組織開発へと広がっていきましたね。
鹿嶋:帰国後、社内に立ち上がっていたODチームと連携し、医薬・原料・人事を巻き込んだ組織開発勉強会を立ち上げました。1万人組織を3人で組織開発するJTの仕組みは、いまや他社にも紹介される実践事例になっています。RRTやマネジメント3.0など、自分たちが「良い」と思ったものをライブラリー化し、現場がいつでもダウンロードして自走できるようにしたんです。
そして、本当の価値は、あの30週間のような「プロセス」を通じて、逃げずに自分と向き合い、仲間と響き合う体験の中にしかない。それをどう届けていくか、広げていくかが、これからの社会、企業、組織の課題だと思います。
小森谷:そうですね。まさに「仲間と響き合う」協奏する組織。日々複雑な問題は勃発する。共通認識をもったマネジャー同士が、お互いの能力を引き出し合いながら、課題の本質は何かを探索し続ける。探索し、試し、そこから解決に向けた糸口をともに探っていく。バラバラだったマネジャーが、お互いの「魂」を震わす共通経験を通じて、コミュニティが形成され、まるで一つの生命体として動いているようでした。

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魂を震わす30週間――RRT(リフレクション・ラウンドテーブル)がマネジャーと組織に与えた「5つのインパクト」
小森谷浩志
世の中にある多くの「組織開発プログラム」は、自己開示や他者理解、コミュニケーションの向上といった関係性の改善で終わってしまいがちです。また、一般的な「マネジメント研修」は、役割認識、管理、自分の部下の育成といった個の力量アップの枠を出ないことが多くあります。
RRTは、単にマネジメントの知識やスキルを学ぶ研修ではありません 。毎週90分、20〜30週間にわたり現場での実践と「内省と対話」を繰り返すプロセスは、マネジャーの「あり方」を根本から変え、組織という生命体に活力を吹き込みます 。
現場での実践と内省と対話を繰り返す営みが、なぜ個の力量アップを超え、組織にこれほど劇的なインパクトをもたらしたのか、その有効性と理由を5つのインパクトとして解き明かします。
インパクト1:単なる「役割認識・管理」を超え、五感を開き、相手とつながる
フレームワークを用いた管理や役割認識といった「個のスキル向上」も必要です。しかし、どれだけ優れたフレームワークを知っていても、現場の生きたマネジメントには通用しません。合理的・客観的な数値を盲信する「フレームワーク・オタク」だったマネジャーたちは、RRTを通じて目に見えないもの、表面化していないことへの感度が上がっていきました。五感すべてを開くあり方へと変容していったのです。目に見えない職場の気配や、流れている空気、相手の言動の奥にある感情や背景にある思いを、察知する能力が呼び覚まされたとき、相手や組織との深いつながりが生まれました。
インパクト2:表面的な「自己開示・他者理解」で終わらない、魂を震わす「真の内省と対話」
昨今の「心理的安全性」を誤解するあまり、ハラスメントや対立を恐れて耳の痛いことを避け、表面上の同調にとどまる傾向が多く見受けられます。まずは「お互いを知って、仲良くなりましょう」ということも大切です。しかし、RRTがもたらすのは、もっと深く、本質的な関係性です。20週目に起きたのは、隠していた不満や怒りをぶつけ合う激しいやり取りでした。20週間、現実の修羅場と内省と対話を共に繰り返してきたからこそ、「この仲間なら、本音を言っても受け止めてくれる」という確かな信頼の土壌が醸成されていたのです。互いの魂を震わすような本音の衝突があって初めて、組織は形骸化した前提を打破し、存在意義を問い直すような深い探究へと向かうことができました。
インパクト3:「個の孤軍奮闘」の空回りから、「マネジメント・コミュニティ」の生起
なぜ、マネジメント・コミュニティが立ち上がることが、マネジャーと組織にとって有効なのでしょうか。それは、優秀なマネジャーの孤軍奮闘ではなく、一つの生命体として機能する組織でなければ、複雑なカオスを進むことができないからです。研修で個の力量をいくら高めても、マネジャー同士がサイロ化していれば組織は空回りします。「俺が引っ張る」という個のエゴをゆるめ、「われわれ全体で価値を出す」という視座に全員が立ったとき、初めてマネジメント・コミュニティが生まれました。違いを認め合いながらも進むべき絵を共有し、チームが「一つの生命体」として動き出す、個人の能力の足し算を遥かに超えた力が生まれたのです 。
インパクト4:「自部署の部下育成」という狭い檻を出る、組織全体で育む次世代へのケア力
「自部署の部下育成」は大切です。一方で、往々にして自部署の利害や個人の育成スキルの話に終始して全体視野を失う危険もあります。真のマネジメントとは自部署の利害を守り、檻に閉じこもることではありません。視座がコミュニティへとシフトしたとき、「みんなの部下」という象徴的な言葉が生まれました。自分の部署の損得を超えて、組織全体で次世代のメンバーをケアし、フォローし、育て合う。優秀なプレーヤーとして自分で手も口も出していたマネジャーたちが、「じっと待つ、任せる、失敗からも内省を促し学習の舞台をつくる」という大局的な姿勢へとシフトしたことで、次世代のリーダーたちが自然と引き出され、立ち上がる自走組織へと向かうことができました。
インパクト5:管理(コントロール)を捨て、「心の余裕・余白」で自走する組織へ
スケジュールを過密に埋めて「忙しいオーラ」を出し、部下を寄せつけないのは、ただの管理(コントロール)であり、組織の硬直化を招きます。RRTを経て、互いを慮り、尊重し、補い合う関係性を手に入れたマネジャーたちには、心に「余裕と余白」が生まれました。この余白があるからこそ、環境の変化に柔軟に対応でき、部下へのケア力が上がり、結果として組織サーベイのスコアも劇的に跳ね上がります。この時に手に入れた生命的推進力は全社へと波及し、最終的に「わずか3人で1万人の組織開発を自走させる」という、驚異的な奇跡へと結実していったのです。
複雑で正解のない現代のビジネス環境において、表面的なコミュニケーション向上や、個人のスキルアップ研修をいくら重ねても組織に変容をもたらすことはないでしょう。マネジャー同士が内省と対話を止めず、マネジメント・コミュニティとして共に課題の本質を探索し続けること 。それがいかに組織に「最高のギフト」をもたらすかを、この物語は教えてくれているようです 。
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